物好きなので、心音の記事、それもS1のみの勉強ノート。
適宜更新されます。
I音について
- フランスのRouanetが1832年にI音は房室弁、Ⅱ音は半月弁が閉鎖するときに生じる音だと記述している。
- I音は前胸部のどこでも聴取することができ、聴診器のベル側でも膜側でも同様に聞こえる。
- 通常、心尖部付近で最も大きく聴取される。
- 僧帽弁の方が閉鎖が早く、M1→T1の順で生じるが、健常ではほぼ同時(<30ms)
→右脚ブロックでT1が遅れるとⅠ音の分裂として聞こえる。
- また、左心系の方が圧力が高く、周囲構造も剛性が高いためM1の方が大きい。
発生機序
- 房室弁の閉鎖自体が起こす音はさほど大きくない
- 房室弁閉鎖時に心室から心房への逆流しかけた血液の流れが突然停止し、その慣性により周囲粘弾性構造(viscoelastic structure)(弁尖、腱索、心室・心房壁)が一斉に振動することによる
- この現象は、水圧配管でバルブを急閉した際に生じるウォーターハンマー現象にたとえられ、血液という非圧縮性流体の急停止が圧力波(音波)を発生させることによる。
- 乱流、渦流の影響は限定的、というかあまり考えなくていい。
I音の強さ
心室収縮力
- 房室弁が閉じる瞬間、左心室圧はまだ左心房圧より僅かに高い程度ですが、その後心筋の収縮で圧は急上昇し弁を強く押し上げます。この心室内圧の急激な上昇勾配(dP/dt)が大きいほど、弁や心臓構造を振動させる力も大きくなり、第1心音の振幅(大きさ)は増大します。
- ウォーターハンマー現象の最大圧力増加 ΔP はJoukowskyの式で表されます:
ΔP = ρcΔv
- ρ:流体の密度(kg/m³)
- c:音速(m/s)(配管内の流体音速)
- Δv:速度変化(m/s)
この式からわかるように、流体の密度や音速が高いほど、速度変化が大きいほど、ウォーターハンマーの影響が大きくなることがわかります。
- ベルヌーイの法則により、収縮期の心室圧変化dP/dtは房室弁を逆流しようとする血液の流速変化Δvを上昇させるため、Joukowskyの式における最大圧力増加(つまりS1の発生源)じゃ大きくなる。
→I音の大きさは収縮力によって影響を受ける。
房室弁の弁尖の位置
- 心室収縮時に弁尖が閉じ切っていないほど、完全に閉じてI音が生じるまで時間がかかる。
- Ⅰが生じる時間が遅くなると、心室圧曲線のより急峻な部分で心音が生じるため、dP/dtは大きくなる。→心音は大きくなる。
- 心電図におけるPR間隔は心房収縮と心室収縮の間隔を示しているので、
- PRが短縮している=心室収縮時に房室弁が閉まっていない=心音は大きくなる。

音響学的考察
- S1は基本的に低周波数の振動(30-100Hz程度)
→ただし心音の中では高音域
- 肺で高周波成分が減衰
臨床的意義
大きなⅠ音
強い心室収縮
- β刺激薬吸入や甲状腺中毒症など
→交感神経刺激による強い心室収縮は、dP/dtを増加させ、S1を増強させる。
僧帽弁閉鎖の遅れ
- 僧帽弁逸脱症
→収縮期逆流性雑音+S1亢進(MRではS1は正常ないし低下)。逸脱した弁尖が緊張するから?
- 僧帽弁狭窄症
→僧帽弁閉鎖が遅れるため(前述の理由)
→MR、VSDによる相対性狭窄も程度が強ければ。
- 左房粘液種
→各長期に腫瘤が僧帽弁に落ち込み弁閉鎖を遅らせるから。
収縮期右室圧上昇
- 肺動脈弁狭窄症、肺高血圧
→右室圧上昇速度が上がることで三尖弁の閉鎖速度上昇=dP/dtの上昇
Ⅰ音の減弱、消失
弱い心室収縮
- 心筋梗塞、左脚ブロック
→dP/dtの低下
僧帽弁早期閉鎖
- PR延長(Ⅰ度房室ブロック)
→左室圧曲線の上がっていないところで僧帽弁が閉じてもS1は聞こえない
- 大動脈弁閉鎖不全症(急性)
→拡張期逆流性雑音+S1減弱は急性期の逆流(心膜炎、KD)を示唆する
→左室拡張末期圧の上昇(心室拡大で代償する時間は急性期にはない)のため、僧帽弁閉鎖が早まる。
強さの変化するⅠ音
リズムが整の時
- Ⅲ度房室ブロック
→PR間隔が拍動ごとに異なる=房室解離(感度58%, 特異度98%)
リズムが不整の時
- 特に臨床的意義は無い
→心周期が一定でないならdP/dtも一定ではない
※Wenckebach型房室ブロックはありうる
Ⅰ音が2つに聞こえる
S1+駆出性クリック
- P弁由来のクリック(PSなど)
→2LSBで聞こえる場合
- A弁由来のクリック
→心尖部-4LSBで聞こえる場合
S4+S1
- 心尖部で聴取かつ前方成分が低音
参考文献
マクギーのフィジカル診断学
レジデントのための心臓聴診法 第2版
子供の心臓聴診 -聴診からわかる病態-
Hemodynamics-driven mathematical model of first and second heart sound generation
Author summary Among various vital signals used for diagnosis and prognosis of cardiac diseases, heart sounds are not em...

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